マルファン ネットワーク ジャパン
第8回救急症例検証会 講演内容


ゲントポスターMNJの説明をするのに、今ポスター(*1)をご覧に入れます。これは、今年ベルギーのゲントで開催されたマルファン症候群医療シンポジウムのポスター展示に日本が出したものです。御茶ノ水女子大の遺伝カウンセラーの田村智恵子先生が作成されました。

ガイドブックマルファンネットワークジャパンの活動を紹介するとともに、去年、独立行政法人医療福祉機構の助成金を得て行ったマルファンに関する総合的なガイドブックと絵本「マービン」の作成事業(*2)について説明しています。MNJ設立は2000年、現在会員は約350名、マルファンが5千人から1万人に一人といわれていることを考えるとこれは少ない人数です。もっと周知活動(*3)を広げなくてはいけないと思っています。会員は患者本人あるいはその家族、またご遺族です。アドバイザーとして35名強の医療関係者、主にお医者様が登録して活動に協力してくださっています。一番新しいアドバイザーは高橋先生です。
MNJの4つの目的は。1、情報の収集と提供2、コミュニティの形成3、社会活動4、生活環境の向上です。古藤さんがお手本にしたのはアメリカの患者会、National Marfan Foundation です。横浜での総会のあと、同じ年の7月にそのNMFの全国大会と国際マルファン組織連盟の会議(*4)がボルチモアで開かれるので、古藤さんは参加を決めていました。このとき、日本からは、5名が参加しました。ボルチモアは日本で言うなら横浜に例えられるきれいな港町です。全国から、患者と家族が集まり、会の運営を支える大勢のボランティアもいました。なんといってもうらやましかったのは、地元にある全米でも有名なジョンズ・ホプキンス大学病院にマルファンクリニックがあり、総合的にマルファンの患者さんを診てくれるということです。マルファン症候群は、その疾患が多岐にわたり、多くの診療科が関係してきます。患者があちこち訪ね歩くのではなく、クリニックを訪れれば、各科の先生が診てくださり、総合的に診断を下さるというのはなんとも有り難いことです。NMFの活動の熱気に圧倒されながら、4日間を過ごしました。また、国際マルファン会議では、国を超えてマルファンの患者会が手をつなぎ、交流しましょうという決意を新たにしました。この集まりを通して海外のマルファンの仲間を知ることもできました。楽しい思い出をたくさん作ることができました。
帰国後、循環器内科医を対象にした研究会では古藤さんは当事者として、自らの経験と会についての思いを堂々と語りました。
昨年の二月、古藤さんは大動脈基部の解離で急逝されました。定期的な検診や予定手術の大切さが謳われてもなお救えない命があるという現実があります。今年の国際医療シンポジウムのベルギーの患者会、会長さんも昨年最愛の息子さんを亡くされました。ボルチモアで私たちも行動をともにした好青年でした。
「良いといわれたことは何でもしてきた、一番良いといわれる医者にも診せた。定期的な検診もしてきた。それでも息子を守れなかった」という母親としての嘆きは聞くのもつらいものでした。私たちはこの事実から目を背けることはできません。恐怖がないといったら嘘でしょう。その上でできることのために努力を惜しみません。息子さん亡き後に、ホスト役としての重責を果たしたイボンヌさんのように、私たちも古藤さん亡き後も彼女の遺志を継いで活動を続けています。去年の2月、告別式の直後に博多で心臓血管外科学会があり、MNJもブースをもらい、また、学会の中で時間を頂き、手術適応の大動脈の径は5センチとなっているが、マルファンの場合それ以下で手術を考慮してもらうべきではないかと訴えました。そして、今年の春にはMNJのアドバイザーの高本先生によって東大病院にマルファンクリニックが開設されました。受診された人によるとまだまだ試行錯誤の段階のようですが、私たちには大きな希望です。去年はガイドブックと絵本を作るという仕事がありました。ゲントでは、多くの人から絵本についてお褒めをいただきました。MNJは患者会としてスタートしましたが、今、会員同士の経験の共有、情報の交換、交流といった、いわば内に向けての活動と同じくらいに大切になってきたことに社会的な責任があります。外に向けての呼びかけ、情報の発信についても心を砕いています。本人や家族だけではできることにどうしても限りがあります。患者本人のプライバシーを守りながら、アメリカの活動のように上手にボランティアを取り入れることは今MNJが抱えている課題です。また、会が組織としてしっかり活動するために、スタッフの学びという課題もあります。
古藤さんが蒔いた種、それは確実に芽を出し、成長を続けています。より大きな成長のためにどうぞ皆様のお力をお貸しください。
最後に今一度、救急隊の方に、マルファン症候群の患者は大動脈解離という致命的な危険を抱えているということを知っていただきたい、その疑いがある現場に出会ったら、一刻も早く対応のできる施設に搬送していただきたいと心からお願いしたいと思います。
今日は貴重なお時間を頂き、有難うございました。

MNJ 霜崎洋子


◇参考ページ
*1 ゲント展示ポスター
*2 マルファン ガイドブック・絵本
*3 救急隊への周知活動
*4 IFMSO 国際マルファン組織連盟アメリカ総会



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