マルファン ネットワーク ジャパン
知らないと恐いマルファン症候群  

3.考察

 下地君は,身長が195cmであること,極度の近視であること以外は,心エコー を勧める項目にあてはまるものはありませんでした.やはり,身長だけでもひっかかった場合,心エコー検査を行うことが重要といえるでしょう.

 心エコー検査担当医は,検査終了時,下地君に,「君の心臓には,少し問題があり ,バスケットボールをあきらめなければいけないかもしれない.日を改めて,大学病 院を受診して,きちんとした診断を行ったうえで,家族や大学関係者の方も交えて相 談しよう」と伝えました.そういう記録がカルテに残っています.スポーツ専門医ですから,選手の置かれた立場や社会状況等を考え,すぐに引退を勧めないという配慮 をしたのです.このことは,以前にもお話ししましたが,重要なことです.じっくり選手の立場になって考え,相談していくことが必要といえるのですが,今回はこのことが,裏目に出てしまったといえるでしょう.

 なぜ後日,大学病院を受診しなかったのかはともかく,検査の結果を簡単にでも聞 いていたから,尋常でない胸痛におそわれた下地君は,自分で救急車を呼ぶように頼 むことが出来たのだといえます.検査を受けていなかったり,検査結果をまったく聞いていなければ,救急車も呼ばなかったことでしょう.もしそうであったとすれば, 試合会場で大動脈瘤破裂をおこし,死亡していたと思われます.

 さらに,試合会場が慶應義塾大学病院に近かったことも幸いしました.下地君が助かった背景には,いくつもの幸運が重なっているのです.ひとつでも欠けていたら, 彼はいまこの世にいないかもしれません.

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知らないと恐いマルファン症候群 > 第10回(3)