2.症例紹介
下地一明(しもじかずあき),昭和51年12月4日生まれ,21歳.身長195
cm,現役時代の体重84kg.中学3年生の時にすでに191cmありました.視
力0.01未満.手首徴候や親指徴候はありません.外見上の脊柱や胸郭の変形もあ
りません.父,母の身長は共に,高いほうではなく,親戚に突然死の家族歴はありま
せん.御存知の方も多いことでしょう.現在,バスケットボールの名門のひとつ中央
大学の4年生です.沖縄の北谷(ちゃたん)高校の出身で,全日本ジュニア代表選手
でした.沖縄県県大会の決勝戦が,インターハイの決勝戦とまで言われた沖縄県大会
で惜しくも破れ,インターハイには出場していませんが,大学や協会関係者が最も注
目した選手でした.
大学3年生,秋の関東大学リーグ戦中の,平成9年10月17日,胸痛が出現しま
した.試合も中央大学の圧勝ペースということもあり,後半残り10分で,ベンチに
戻りチームメイトのプレイを応援していました.胸痛は,はじめは,プレイ中に受け
た肘打ちによるものではないかと考え,その内おさまるだろうと思っていたところ,
死にそうなほどの胸痛におそわれ,自分で大会本部に救急車を呼んでもらいました.
試合会場であった代々木第2体育館から近いということもあり,慶應義塾大学病院に
搬送されました.
救急部の診断は,解離性大動脈瘤でした.破裂寸前であったため,直ちに入院,緊
急手術が行われました.私が連絡をうけ,下地君を見たのは,術後の集中治療室でし
た.こちらの問い掛けにかろうじてうなづく,弱々しい下地君でした.でも生きてい
てくれて,本当によかったと思いました.その後,順調に回復し,いまでは20kg
も体重も増え,まったく普通の人と変わりない生活をしています. もうすこし,経
過を詳しくお話しましょう.全日本代表になると,大会前には,メディカルチェック
を行います.バスケットボール協会医科学研究部の先生方の御努力によるものです.
下地君がマニラのアジアジュニア選手権に出場するときには,残念ながら心電図,胸
部X線写真検査までしか行われませんでした.以前にもお話ししましたが,この2つ
の一般検査ではマルファン症候群は,検出することは出来ません.その後,中央大学
に進学した際,慶應義塾大学スポーツ医学研究センターにおいて,心エコー検査を行
いました.中央大学では,全員の心エコーを行うようにしていたのです.このとき,
検査を担当した医師は,本人に,簡単ではありますが,「きみの心臓には少し異常が
あり,バスケットボールはやめたほうがいいかも知れない」と伝えました.担当医は
,諸般の事情も考え,今すぐ引退勧告をするのは妥当ではないと判断し,後日,監督
やコーチ,家族も一緒に慶應義塾大学病院の方で相談しようということをマネージャ
ーを通じて伝えました.この先の事情がはっきりしないのですが,結果的には,下地
君は,マルファン症候群の疑いをもたれたにもかかわらず,その後,慶應義塾大学病
院を受診することなく,2年間無事にプレイしていたのです.そして,胸痛発作で倒
れてしまったのです.
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知らないと恐いマルファン症候群 > 第10回(2)