マルファン ネットワーク ジャパン
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 こんにちは。わたしは古藤雅代と申します。マルファン症候群当事者です。
 マルファンネットワークジャパンという、マルファン症候群本人と家族の会を立ち上げ、現在も代表として活動しています。
 今日このような場で、医療に携わったり関心をもっておられる方々の前で、お話する機会を与えて下さったことに、深く感謝いたします。まず最初にお断りしておかなくてはいけませんが、これからお話することの中には、患者側からの視点だけで判断していることも、多々あると思います。日々医療の現場で切磋琢磨しておられる方々に対して、失礼な発言もあるかもしれません。しかし、わたしたちが目指そうとしているゴールは同じだと思います。どうか、広い心で耳を傾けていただけたらと思います。

 今日は、なぜマルファンネットワークの必要性を感じ立ち上げに至ったか、わたし個人の体験をお話いたします。そして今後、マルファンネットワークが、専門職の皆さまと共に、どんなことに取り組んでいくべきなのか、ということを考えてみたいと思います。

 今日一日、各分野の先生方のお話をお聞かせいただいて、現在の最新情報を知ることができました。15年前には循環器手術ひとつとっても、とてもリスクの大きい危険な手術だったものが、医療の進歩により、状況は 急速に改善されつつあると知り、とても心強く思いました。
 しかし忘れてはならないのは、医療の進歩や正確な情報の恩恵にあずかることなく、突然死という悲しい現実に直面しているマルファン当事者が数多くいるということです。
 情報不足のせいで命を落としていく多くのマルファン当事者の方々を救い出すために、当事者、専門職、社会が一体となって出来ること、取り組むべきことは、沢山残されているのではないでしょうか?

2.1 マルファン症候群と診断され、手術を受けるまで
 まず、わたしの病歴についてお話ししたいと思います。
スライドをご覧下さい。

わたしは1970年生まれです。2700グラムで産まれ、とても元気な赤ちゃんだったそうです。
赤ちゃん

産まれたときに股関節脱臼があったため、しばらく装具をつけていました。これが生後5ヶ月頃、装具を付けている時の写真です。
生後5ヶ月

この写真を撮った、3才の時、一度腸閉塞で病院へ運び込まれました。それからは12歳で気胸を起こすまで、特に病気もしないで育ちました。
3歳

これが小学校4年生の頃の写真です。身長はいつもクラスで一番高く、とてもやせていました。
小学校4年生

1982年12才の時、自然気胸を起こしました。当時身長163センチ、体重37キロでした。その時は「自然気胸は普通、若くて背の高い男性がおこすものだが、小学生の女の子が起こすとはめずらしいね」と言われただけで、マルファンは指摘されませんでした。視力は今でも2,0ですし、そくわんも無かったせいかもしれません。
気胸は20歳のときにも再発していますが、このときもマルファンとは言われませんでした。ふっくらしていたせいかもしれません。
 12歳

自然気胸を2回起こした以外は、学校や職場の健康診断でひっかかったことは一度もなく、自分はいたって健康であると思い生活していました。
1994年23才の春、わたしは大学の卒業論文や卒業旅行、就職を控えたストレスが加わり、非常に忙しい生活を送っていました。
その日は久しぶりの休日で、遅めの昼食の用意をしていました。 すると突然、みぞおちに、今まで経験したことのない激痛が襲ってきました。痛さのあまり立っていることが出来ず、その場に倒れ込みました。一瞬のうちにさらに痛みは強くなり、おなか全体に広がっていきました。あまりの痛みで両足の筋肉が硬直して立ち上がることさえできず、家族がすぐに救急車を呼びました。
その日は休日だったため、何の診断も受けないで、救急処置室で一晩過ごしました。いくら痛み止めを点滴してもらっても、痛みは弱まるどころか、背中や腰へと徐々に移動しながら、拡がっていきました。
 一晩痛みに耐えた翌日、別の医師が診察し、カルテを見て「これだけの量の痛み止めを使ったなんて異常ですね、これで効かないはずがないんだけど」と疑り深く言われたことを覚えています。その後、腹部エコー検査、胃カメラなどした結果は、「異常なし」。神経性の胃炎だという診断でした。
 それから2週間ほど、背中の痛みが続き、熱も38度でました。その間、私は家で寝ているしかありませんでした。
1ヶ月ほど経って、まだ軽い咳と胸の痛みが続いていましたが、普通の生活に戻り働き始めました。結局、これが解離だったと分かったのは、それから2年後のことでした。
アメリカの新聞記事

スライドをご覧下さい。これは、アメリカの新聞記事です。
「マルファンについて知らなかったために、アリソンの命は救われなかった」
「23歳のアリソンは、突然の背中の痛みで病院に運ばれた。彼女は非常に背が高く痩せていてマルファン特有の骨格だった。胃腸風邪という診断で帰宅したが、4日後、下行大動脈瘤が原因亡くなった。マルファン症候群とは診断されなかった。」
 彼女は、ちょうど私と同じ年齢の23歳の時、同じ下行大動脈解離を起こし、誤診されて、この世を去ったのです。
解離時の誤診については、わたしや、このアリソンさんだけではなく、MNJでも多くの会員が体験しています。そこで少し話はそれますが、ここで、解離時の診断について、お話させていただきます。

MNJでは、2001年4月実施のアンケートで「解離したとき、何と診断されたか」質問しました。スライドをご覧下さい。
1回目の解離時の診断
すると残念なことに、解離経験のある40人中13人が、解離を起こした時に誤診されていたことが分かりました。誤診の内容は
「異常なし、過呼吸、ヒステリー、腎結石、肺結核、出産の痛み」などです。
(MNJアンケート基礎データ編p54 Q53)
このように誤診された方々が多いということは、医師がマルファン症候群について知らない、ということに加え、医学書に書いてある解離の症状と、実際の解離の症状に隔たりがあるのではないか、という疑問が湧いてきます。
 そこで、アンケートに解離の痛みについての質問項目を作り、現在分析を進めているところです。これがその集計結果です。
解離の痛みグラフ

解離の痛みグラフ

 大動脈基部の解離を経験された方9名の内、激しい痛みを訴えたのは1名のみ、3名が「苦しさ」3名が「違和感」を感じています。弓部、下行、腹部大動脈解離の痛みをみてみますと、40名中30名が「激しい痛み」9名が「苦しさ」3名が「違和感」を訴えました。
 以上の結果から、解離は一般的に言われているような激しい痛みだけではなく、苦しいと感じる場合も全体の2割あると分かりました。特に基部の痛みだけを見てみると、6割以上の方が「苦しさ」「違和感」をあげておられます。
  このアンケート結果より、医療現場の方々には、もしマルファンらしき体形の人が、胸の痛み、息苦しさ、違和感などを訴えて、救急現場へ運ばれてきたら、まず解離を疑うように、是非認識していただきたいと思います。
 そして、迅速で適切な処置により、一人でも多くの命を救っていただきたいと思います。
 
 話を、わたしの解離に戻します。
 解離から2年が過ぎた、1996年、25才のとき、3度目の気胸を起こしました。そしてこのとき撮影したレントゲン写真から、大動脈が拡張していることが分かりました。 しかし気胸治療のための2週間にわたる入院の間、大動脈瘤についての説明は医師から全くありませんでした。
 退院するときになり、ようやく私にも医師から説明がありました。その時の会話は次の様なやりとりでした。
「古藤さんの、胸から下へ行く大動脈に瘤がみつかりました。大動脈瘤とは、大動脈が年とともにかたくなり、膨らむ病気です。古藤さんの場合、まだ若いので先天的に大動脈が弱かったのでしょう。このような先天的な大動脈瘤の手術の成功例はありません。」
「世界中何処へ行ってもだめですか?」
「この手術は、世界中何処へ行っても、不可能です。」
 この時の説明で、マルファンという言葉は医師の口から直接きいていません。ではなぜ私がマルファンと言う言葉を知ったかというと、カルテに「大動脈瘤について説明する必要があるが、マルファンという言葉は使わない」という一文を見てしまったからです。

 マルファンの場合、循環器、眼科、整形外科、など症状が多岐に渡ります。自分自身で、自分の身体全体を管理していかなければならないことは、言うまでもありません。 自分で自分の身体の状態を把握し、管理していくために、マルファン症候群についての詳しい説明と、今後マルファンとどう付き合って行けば良いのかということ、この2つを詳しく説明していただきたかった、と思います。
 このとき詳しい説明が無かったために、わたしはマルファンについての情報を、自分で手当たり次第に探しだすしかありませんでした。大型書店で医学書を読んでも、分からない言葉だらけ、希望のもてる情報は何一つないように思えました。医学部図書館へも足を運びましたが、状況は同じでした。
 結局、インターネットを使ってアメリカのマルファン財団の一般向け情報を探しだすことができ、ようやくマルファンとは何なのか、理解できました。どうして家族の中でわたしだけ、こんなに背が高いのか、どうして自然気胸を何度も繰り返していたのか、すべてがすとんと腑に落ちて、不思議とほっとした、というのが正直な気持ちでした。

 このときの医師は、なぜ、わたしがマルファンであると言ってくれなかったのか、手術の出来る病院を紹介してくれなかったのか、今となっては分かりません。「大動脈瘤の手術は何処へ行っても無理だということ、降圧剤を飲むこと、妊娠出産はあきらめること。」わたしが知ることが出来たのは、たった、これだけでした。 そして「大動脈手術は国内で可能」であり「妊娠出産への道も残されている」と知ることが出来たのは、それから5ヶ月後のことでした。本当に長い5ヶ月間でした。
 最初の病院で「手術は世界中何処へ行っても無理だ」と言われた後、知人の紹介で、近隣の大学病院にかかることにしました。しかし、そこでの説明は、 「手術の成功率は50%です。3人に一人は死亡し、6人に一人は下半身不随になります。手術をうけるかどうか、良く考えてから、もう一度来て下さい。あなたはまだ若いのだから、病気のことは忘れて楽しく生きなさい。」というものでした。
 アメリカの病院行きも検討し始めていた、診断5ヶ月後、知人より大阪に循環器に強い病院があると聞き、あまり期待せず出かけました。すると思いがけないことに、そこでの手術の成功率は95%であり、わたしの場合すでに手術が必要な時期にきているということでした。
 その医師に今までの病院での診断を説明すると「それは大昔の話です。この病院では3年前からこの術式を確立し、好成績をあげています。」と言われました。96年9月のことでした。 このように、わたしは3軒目の病院で、ようやく治療できる医師に出会うことが出来ました。でも、1軒目の病院を信じて手術をあきらめている人、2軒目の病院を信じて、大きなリスクのある手術を受けている人もいるのです。
 命はひとつひとつかけがえのないものであるはずなのに、最新状況を知っているかいないか、それだけで、生き死にまでが決定されていたのです。
情報は命を救う
このことを強く実感した体験でした。

 これはマルファン症候群だけに限らず、すべての病気にいえることだと思いますが、ある病気に対する治療法が、国内または海外で確立している場合、医師にはそれを探し出して患者に伝える義務があると思います。そして、もし一医師がすべての情報を入手することが出来ないのならば、全国の病院が、広く一般に情報を公開していかなければならないと思います。そうなれば、患者は医師から十分な病状の説明を受けた上で、自らの命を託す医師や病院を選択することができるでしょう。
 わたしはこのように考えていましたが、患者の側から現状を変えていくためには、多くの労力と時間がかかります。
 ならば、私が今まで得たマルファンの最新情報を、他のマルファンの人たちにも知って欲しい、また彼らが日本でどんな生活を送っているのか、知りたい。同じ状況で悩んでいるマルファンの仲間で集まって、情報交換し、知らないがために、みすみす命を落とすことのないよう、注意を喚起しあわなくてはいけない。いつ死ぬかと覚悟を決めた命だけれど、わたしの情報をみて助かったと言って下さる方が一人でもいれば、わたしはこの世に産まれてきた意味があるのではないか。
 そんな気持ちから、インターネット上にホームページを立ち上げたのが1996年10月のことでした。そのページは、アメリカ・イギリスの最新情報の翻訳記事と、わたし自身の体験を綴ったページからなりたっていました。 
 ホームページ立ち上げより1ヶ月が過ぎた頃から、少しづつ、マルファン症候群当事者やご家族の方々からの連絡をいただくようになりました。
 そこには孤独と不安を感じ、科学的根拠もない情報に苦しめられていた多くの方々の姿、マルファンについて詳しく知らなかったために命を落とされた方々の御家族の姿、がありました。 そして生まれて初めて、家族以外の同じ病気の人と話をし、何も説明することなく気持ちをわかりあえる安心感に、私たち自身が、一番、驚いていました。
 こうしてホームページ立ち上げから3年ほど経ってようやく、たくさんの仲間が力をもちより、支援団体として新たなスタートをきることが出来ました。

 1996年10月に開設された私の個人ホームページをきっかけに、当事者やご家族が体験を語り合い、情報交換をするようになりました。そして分かってきたことは、マルファン症候群は正しい知識を持って適切な処置を受けているかどうかが、予後を大きく左右する疾患であるということ。そして、この事実を知らないで生活している方々が実に多いということです。 実際にはマルファンについて詳しく知れば知るほど、私たちの不安は小さくなりました。幸運にもこうして出会い集うことができた私たちは、正しい情報を同じ仲間に伝えていく使命があると考えるようになり、2000年4月、次の4つを目標に正式な団体として活動を開始しました。



3.マルファンネットワークジャパンの活動

 MNJ4つの目標
  1. 情報の収集と提供
    マルファン症候群に関する正確でタイムリーな情報を収集し、提供します。
  2. コミュニティの形成
    マルファン症候群をもつ人たちや家族、関係者が、お互いに経験や知識を共有できるコミュニティをつくります。
  3. 社会活動
    社会へ向けて、正確な情報に基づいたマルファン症候群についての理解を広めます。
  4. 生活環境の向上
    MNJを通じて、各自がマルファン症候群とのそれぞれのつき合い方を見いだし、 豊かな生活をおくることを支援します。


(1) 情報の収集と提供

「マルファン症候群に関する正確でタイムリーな情報を収集し、提供します。」
 2001年4月には、マルファンについての実態をさぐるため、会員全員にアンケート調査をしました。病院、循環器、目、骨格、肺、皮膚、出産など身体的症状に加え、心理的な側面など、普段私たちが疑問に感じていることを知るためのアンケートです。110人以上の方々から回答いただき、現在基礎データを集計し印刷し終わったところです。皆さんのお手元に配られているアンケート結果の冊子が、それです。将来はこのアンケート集計結果をさらに分析し、いままで知られていなかった、当事者や家族の現実を、報告したいと考えています。

(2) コミュニティの形成

「マルファン症候群をもつ人たちや家族、関係者が、お互いに経験や知識を共有できるコミュニティをつくります」
 マルファン当事者は外見上、小さいときから「自分は人と違う」と感じていることが多いようです。また、マルファンに関連する心配ごとや悩みは、友人などに話しても、分かりあえないこともあります。 こういう不安は、同じ当事者同士で話し合うだけで、かなり楽になるようです。実際、東京で日本で初めてのマルファンミーティングが開かれた後「人生が大きく変わるのを感じた」という感想が寄せられました。
いつでも何でも話すことの出来るコミュニティーは、私たちの宝です。

(3) 社会活動

「社会へ向けて、正確な情報に基づいたマルファン症候群についての理解を広めます」
 今日このような場所で、医療の現場に携る方々の前でお話させていただくことは、マルファン当事者の現実について分かっていただく貴重な機会で、本当に嬉しく思っています。今後もこのような機会がありましたら、積極的に参加させていただきたいと思います。
 また、社会の誤解や差別などに対しては、その都度正していくことが必要だと考えています。

(4) 生活環境の向上

「MNJを通じて、各自がマルファン症候群とのそれぞれのつき合い方を見いだし、豊かな生活をおくることを支援します。」
 正確な情報を得て、マルファンの仲間と出会い、語り合う中で、本人や家族一人ひとりが、自分の人生で、どうマルファンと向き合っていくのかを見いだし、充実した生活を送ること、これが私たちの最終的な目標です。
 5000人に一人といわれるマルファン症候群ですが、わたしたちはまだ会員200名たらずです。日本全国に約20000人以上のマルファン当事者が存在することを考えると、わたしたちは幸運な一握りの人間の集まりなのかもしれません。それだけに、わたしたちMNJ会員は、今なお情報不足の中で苦しんでおられる当事者や御家族と出会い、情報を共有していく責任を負っていると感じています。

 現在、何らかの形でMNJの活動に関わっているスタッフは約30名います。各自が家庭や仕事を持ちながらのボランティアです。運営している間には、スタッフや家族が入院したり、といったこともしょっちゅうあります。にもかかわらず、こうして活動を継続していけるのは、「次世代のマルファン当事者や家族に、自分と同じ苦しみを味あわせたくはない。」という非常に強い意識が働いているためだと思います。
 私自身も、96年にマルファンと診断されてから、翌97年に大動脈瘤手術を受け、99年に結婚しました。その間MNJ活動は常に生活の中心にありました。これも、わたしの気持ちを理解し応援してくれている家族の支え無くしては続けてこられなかっただろうと思います。
 夫とはマルファンと診断される前からのつきあいです。夫の両親は、私の身体の状態を良く理解したうえで、結婚に賛成してくれました。現在その夫も、わたしと共にMNJ活動を精力的に行っています。
 MNJはこれら多くの強力なスタッフ、会員、支援者なくしては、存在しえなかったと思います。

 わたし個人のホームページを立ち上げてから8年、正式な発足から3年目という若い会ではありますが、今後も皆さんに助けていただきながら、以上4つの目標を大きな柱に、活動をしていきたいと思っています。

4.自分自身の体験とMNJ活動を通して痛感したこと

4.1 まずなによりも、強く実感したのは、「正確な情報が命を救う」ということです。


 現在、およそ週に1通の割合で届けられているマルファンネットワークへの入会届には、御本人や御家族の、それまでの歴史が綴られています。

 世界中で、マルファンを背負って生きているのは自分たち家族だけなのではないかと感じ、不安に押しつぶされそうなご家族。

 幼いころからマルファンという言葉を聞かされてはいても、それについての詳しい説明はなく、ましてや循環器系の定期検診が突然死をさけるために必要であることなど全く知らされないで、命を落とした方。

 他にも治療方法があるにもかかわらず、それを知らされないで、経過観察だけを勧められ、結局光を失った方。

 他の病院へ行けばもっと高い成功率で手術を受けられる。それを告げられることなく、医師を信じて命を懸けて手術に挑み、亡くなられたり、障害を負われた方々。

 妊娠出産に関して「妊娠すると身体にかかる負担」「遺伝する確率」「無事出産するために何ができるか」この3つをまったく知らされることなく妊娠し、不幸な結果になった方。

 命を落とされた方々と、今ここにいる私たちとを隔てたものは、なんだったのでしょう?そしてこういった不幸を2度と繰り返さないために、私たちに何が求められているのでしょう?
 私には、もし次の4つの点について説明されていたなら、彼らは、まだ元気に生きていたのではないかと思えてなりません。
 ・ マルファン症候群についての詳しい情報
 ・ 将来起りうる諸症状を軽減するための予防措置
 ・ 可能な全ての治療方法について詳しい情報提供
 ・ より良い生活を送るためのカウンセリング


□ マルファン症候群についての詳しい情報提供

マルファン症候群の身体的特徴や症状、原因、診断方法、治療方法などの詳しい説明をしてください。 またその方の身体の状態について、ありのままを説明してください。

□ 将来起りうる諸症状を軽減するための予防措置

 MNJアンケートによれば、初めてマルファンだと診断された時、循環器の定期検診が必要だと伝えられたのは、117人中、たった68人でした。診断時の説明がいかに不足しているかが分かります。是非、循環器系の定期検診の重要性を伝えて下さい。そして、マルファンによって将来起こりうる諸症状と、その対処方法を伝えて下さい。女性には妊娠出産についてのリスクと産むために何ができるかを説明してください。
親族にマルファン症候群の疑いのある方がいらっしゃれば、その方々に対しても、検査や説明を実施し、不安を取り除いて下さい。

□ 現在、可能な治療方法について詳しい情報提供
  • 治療が必要な場合、現在の医学水準で考えられる全ての手術方法と、そのメリットとリスクについて説明してください。
  • また、病院での治療成績、ならびに他院の治療成績を公開し、患者が自分で、治療方法を選択できる体制作りを整えて下さい。
  • その後、必要ならば他院への紹介や、他科との連係を行って下さい。
  • 患者がすべての情報を得たうえで、医師を選択し治療を受けられるような配慮を、よろしくお願いいたします。
□ より良い生活を送るためのカウンセリング
  • 日常生活で気をつけなければいけないことを伝えて下さい。
  • 何度も手術を受けながらも一般生活を送っている仲間がいること、マルファンネットワークの存在を伝えてください。
  • また、マルファンの子どもたちには、肉体労働につくことはできないけれど他の子どもたちと同様、家族をつくり仕事をもち将来に夢を持つことができることを伝えてください。


以上4つについて、マルファンと診断されたときにお話していただければ、多くの方々の命や心、未来が救われると思います。


5. 専門職の方々と共に、取り組んでいきたいこと

 ここまで、私たちマルファン当事者をとりまく現状についてお話させていただきました。ここからは、これからMNJが専門職の方々と共に、取り組ませていただきたいと考えていることをお話いたします。

5.1 マルファン症候群を早期に診断するための体制づくり

 マルファン症候群だと診断された年齢を、MNJアンケートから見てみます。すると、3歳から7歳が診断のピークで、その後20歳までは診断される人の数は非常に少なくなっています。20歳以降は解離や心臓血管に症状が出ることで、診断される人の数が増えています。(MNJアンケート基礎データ編131ページ表009−05)
マルファン症候群は早期に診断され、適切な処置を受けることが、予後を大きく左右します。3歳児検診においては、身長が標準を下回っていると、他の病院へ紹介されたりするが、高身長でも特に問題なしとするとも聞きます。
 早期に診断されることにより、命に危険が及ぶバスケットやバレーなどのスポーツを避けることが出来、身体に負担のかからない職業選択をすることも出来ます。
マルファンが早期に診断される機会が増えるよう、働き掛けていきたいと思います。

5.2 マルファン症候群の総合的な診察科作り

 マルファン症候群のように症状が身体全体に及ぶ場合、それぞれの診療科のマルファン専門医に出会うのが大変難しいのが現状です。また、常に自分で自分の身体の状態を把握して、目や心臓などの定期検診を行っていかなければならず、それがストレスにもなっています。 このような問題を解決するためには、常に身体全体の状況を総合的に把握し、診療各科との連携をとってくれる医師の存在が必要だと感じています。このような医師が、多くの病院に配置されることを、望んでいます。


5.3 マルファン症候群を正しく理解していただくための情報整備

□ MNJアンケート結果の分析
MNJでは2001年4月に、会員のかかえる悩みの現状を知るためにアンケートを実施しました。
今後、専門職の方々と協力し、MNJアンケート基礎データ編の分析を実施、発表し、当事者の抱える問題を、多くの方々に理解していただきたいと思います。このアンケート結果をご覧いただき、さらなるデータ分析をしてみたいと言う方がおられましたら、是非ご連絡頂きたいと思います。

5.4 社会的、心理的側面からの支援

 学校生活においては、教育者がマルファン症候群について正しい情報を得て、児童が特別扱いされ精神的苦痛を味わうことがないような配慮が必要です。保健体育の先生方には、ドッチボールやマット運動など、水晶体亜脱臼を起こすおそれのあるスポーツを見学することに、理解を得られなかったケースが多くあります。無理解により子ども達の心が傷つくことないよう、家族や専門職が協力し、教育機関に理解を求めていきたいと思います。

 経済的負担を軽減するための制度や活用方法を相談できる窓口や、心の悩みを相談できる窓口を知らせて下さい。経済的に困っていて援助を必要としているにもかかわらず、どのような制度を活用できるのか、わからずにいる方がいらっしゃいます。是非、相談窓口を紹介していただけるよう、お願いします。

5.5 MNJ会員への登録

 当事者だけではなく、専門職の方々にも、賛助会員として登録していただき、マルファンネットワークの活動を支えていただくことができます。賛助会員としての入会を心よりお待ちしております。 また、もし皆様方が、マルファン症候群当事者や御家族の方々に、出会う機会がありましたら、是非MNJの存在を知らせてください。


5.6 MNJを多くの方々に知らせる

 今日このような場所で、みなさんにMNJについてお話する機会を与えて下さり、本当にありがとうございました。今後もマルファン症候群や支援団体について発表できる機会があれば、積極的に参加させていただきたいと考えておりますので是非、お声をかけてください。


5.7 未来へ向けて

 ここまで、マルファンを取り巻く現状ならびに専門職の皆さんと取り組んでいきたいことをお話いたしました。これらの事は、マルファンだけに限らず、あらゆる病気に共通する問題点が多く含まれているように思います。

 わたしたちが迎えつつある高齢化社会、誰もがいつ病気になってもおかしくない現実。

 自分の病状を正確に把握し、病気とのつきあい方や治療方法を知り、納得した上で、自分にあった選択をする。 このことは、マルファン症候群に限らず、あらゆる病気に共通する、人として当然の権利であり、生き方の選択ともいえます。
 わたしたちは、この願いが当たり前と言える社会をめざして、活動していきたいと考えています。
しかし当事者のみで出来ることは限られていますので、今後も専門職の方々のご協力が是非、必要です。

 今日みなさまに、わたしの話をきいていただけたこと、本当に嬉しく思います。
 なぜなら今ここにいらっしゃる方お一人が3人のマルファン症候群の方に出会うとしても、300人近くの命や心が救われる計算になるからです。

 正しい情報は命を救います。

 このことを忘れないで、これからも医療関係者のみなさんや、マルファン症候群の方々と共に、歩んで参りたいと思っています。
 ご静聴ありがとうございました。


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