マルファン ネットワーク ジャパン
知らないと恐いマルファン症候群  

3.心肺蘇生法(一次救命手当て)

 本紙の読者の多くは医師以外の方々だと思いますので,これからは,一次救命手当てについてお話ししていきたいと思います.

 救急の現場で患者が特に生命の危機にさらされる状態は,以下の3つの状態です.  

  1. 呼吸あるいは心停止  
  2. 大出血  
  3. 意識消失

 ヒトは生命を維持するために,空気中の酸素を肺の中に取り込み,取り込まれた酸素は血液を介して全身に運ばれます.また,ヒトのからだは酸素なしで一定時間生きながらえることができるようになっていますが,最も重要な脳神経細胞は3分間の酸素欠乏で組織が死んでしまいます.すなわち,患者の命を救うことが出来るのは,倒れた現場で正しい処置が施されれたときにかぎるということが出来ます.正しい処置が施されなかったときには,救急車が来たときには,すでに手遅れであることがほとんどでしょう.そこで,是非みなさんにも,一次救命手当ての方法を知っておいてい ただきたいと思います.

 選手がスポーツの現場で急に倒れた場合,次のことを覚えておくとよいと思います .それは,ABCという言葉です.この順に手当てを行っていけば,正しい一次救命の手順になるのです.

 まず,Aとは,AirwayのAです.すなわち,気道を確保することです.呼吸は生命を維持するうえで,欠くことの出来ないものです.呼吸によって,空気は鼻や口から取り込まれ,気管,気管支を通って末梢の肺胞まで運ばれます.そこでガス交 換が行われ,酸素が血液中に取り込まれ,血液中の二酸化炭素が肺胞中に排出されます.肺胞中に排出された二酸化炭素は,気管支,気管を通って鼻や口から空気中に吐き出されます.この空気の通り道を気道と呼んでいます.気道を確保することは,一 次救命手当ての最初に行うべきことであるということはお分かりだと思います.では ,気道が閉塞あるいは狭窄する原因は何なのでしょうか?第1に,頭部が前方に屈曲するために気道が狭窄する場合です.第2に喉頭内の筋肉が弛緩して舌根が後方に沈下し気道をふさぐ場合です.第3に,咽頭反射が消失し,唾液や嘔吐物を排出できずに気道が完全に閉塞される場合です.これらのいずれの状態でも,一刻も早く気道を確保する必要があるわけです.

 図1をご覧ください.まず,患者の脇に膝まずいて,人さし指と中指であごをささえ,もう一方の手で額を押し付け後方へ傾くようにします.あごを支えることで舌根 の沈下を防ぎ気道が確保されます.もしも呼吸に伴って,ぜいぜいいうようでしたら ,気道が障害されているので,直ちに気道を確保してください.自発呼吸があるかないかをチェックします.図2のように呼吸を耳で聞くか,肌で感じ,同時に胸郭の動きを目で確認します.気道を確保した状態で,嘔吐物や食べ物などが口腔内に詰まっている場合には,これらをただちに取り除きます.その方法は,患者の顔を横向きにして人さし指と中指で図3のように口を開かせて,右手でガーゼなどを用いて口腔内にたまっているものをかき出します.そしてもう一度,自発呼吸の有無をチェックし ます.

 以上のようにして,一次救命のA,Airway気道の確保を行うのです.

 次回は,一次救命手当ての続きをお話ししたいと思います.

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