マルファン ネットワーク ジャパン
知らないと恐いマルファン症候群  

1.はじめに

 これまでマルファン症候群がどんな疾患であるのか,なぜバスケットボール選手に潜在的に多く含まれるのか,通常の健康診断では不十分であること等について解説してきました.マルファン症候群を知らずに突然死となってしまったケースや,幸いに して死亡事故にはならなかったが危機一髪で一命をとりとめたケースが最近増えてい ることを鑑み,バスケットボール関係者にマルファン症候群を知っていただき,事故を未然に防ぐことがこの特集の目的です.マルファン症候群当事者の方や,ご家族の方には,読むに耐えないこともあるかとは思いますが,正しい知識を持って,正しい対処を施して,悲しい事故を防いでいただきたい一心で執筆していることをご理解していただきたいと思います.第1回にも書きましたが,マルファン症候群は,知らずにいると若年者で突然死の原因となりえますが,マルファン症候群であることを知り ,ただしい対処を施せば,突然死の危険はぐんと減り,天寿を全うする患者もみられるのです.復習してみましょう.マルファン症候群では,若年アスリートの突然死の 原因に限れば,解離性大動脈瘤がもっとも重要です.マルファン症候群では,大動脈 壁に構造的異常があり壁の強度が弱いために,血圧が上がると容易に動脈壁に亀裂が 生じ(解離),その結果,解離した動脈壁内に血液が流れ込み,コブ(解離性動脈瘤 )を作っていきます.この解離性大動脈瘤は,自覚症状を出さずに徐々に大きくなっ ていき,最終的には動脈壁が破れて動脈瘤が破裂します.大動脈瘤が破裂してしまう と,命を救うことは非常に困難です.したがって,大動脈瘤が破裂する前に,見つけだし,破裂しないように未然に防ぐことが,命を救う唯一の方法といえるわけです. この若年者の大動脈瘤破裂を防ぐには,激しいスポーツをやめることが重要になりま すが,ケースによっては,制限内のスポーツを許可されることもあります.手術によって,解離性動脈瘤のある血管を人工血管に置き換える手術を受け,スポーツを楽し むことが出来るケースも見受けられます.若年時に解離性動脈瘤破裂を防ぐことが出来,高齢者まで心臓専門医の管理の下に生活を送れば問題はありません.高齢者では ,心不全が重要となります.マルファン症候群では,大動脈弁に異常が生じ,弁が完全に閉じず”すきま”が出来るために(大動脈弁閉鎖不全),動脈血の逆流が起こります.その結果,心臓が血液を送り出す効率が悪くなるため心臓の負担が増え,これが長年にわたった場合は心不全に陥ります.すなわち,マルファン症候群では,若年 者は突然死の予防を,高齢者では心不全の管理を受けることが重要といえるのです. 今回は,バスケットボールチームの医学的管理をする立場から,マルファン症候群を念頭においたうえでの管理方法について解説したいと思います.

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