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知らないと恐いマルファン症候群  【マルファン症候群とは】

2.マルファン症候群とは

 では,マルファン症候群とは,いったいどんな病気なのでしょうか? マルファン症候群は,19世紀の終わりにMarfanというフランスの小児科医によりはじめ て記載された病気です.

 マルファン症候群では,図1に示したような症状が出ます.外見で分かるものと, 内科的検査で分かるものに分けて説明していきましょう.

 まずマルファン症候群の外見上の最大の特徴は,高身長です.したがって,バスケット選手の中には潜在的にマルファン症候群の人が多く含まれていることになるわけです.次に,四肢(腕,脚)が長く,指も長いのが特徴です.また,やせているのも特徴です.近視が強く,度の強い眼鏡やコンタクトレンズを使っています.背骨が曲がっていたり(側弯症や後弯症),漏斗胸といって胸郭がへこんでいることもあります.

 内科的検査で初めて分かるものには,心臓や大きな血管の異常です.図2を見てください.正常な人の心臓,血管です.マルファン症候群の人の心臓,血管を図3にまとめてみました.

 マルファン症候群では,大動脈を構成する壁の構造に異常が生じているので,血圧に血管が耐えきれずに,左心室から上行大動脈が嚢状に拡張してくるのが特徴です. 通常,拡張は年齢とともに進行し,大動脈弁の機能に支障を来すようになります.大動脈弁は左心室の出口にあり,酸素を多く含んだ血液が心臓から体に巡っていく最初の部分にあります.この弁があることによって,体に行くべき血液が心臓(左心室)内に戻ってくる(逆流といいます)のを防ぎます(図4).マルファン症候群では, この大動脈弁に異常が生じ,弁が閉じるべきときに閉じず(大動脈弁閉鎖不全)に, 動脈の逆流が起こります.大動脈弁に逆流が生じると心臓が血液を送り出す効率が悪 くなるため心臓の負担が増え,これが長年にわたった場合は心不全に陥ります.心不全はマルファン症候群の死亡原因として重要ですが,これが問題となるのは比較的高 齢者においてであり,若年アスリートの突然死の原因に限れば,以下に述べる解離性大動脈瘤がもっとも重要です.左心室から出た血液は,上行大動脈,大動脈弓,下行大動脈を順に通過していきます.マルファン症候群では ,先に述べたように大動脈壁に構造的異常があり壁の強度が弱いために,血圧が上がると容易に動脈壁に亀裂が生じます(この亀裂が生じることを解離といいます).その結果,解離した動脈壁内に血液が流れ込み,コブを作っていきます.これが動脈瘤 (りゅう)です.動脈壁が解離することによって生じる動脈瘤なので,解離性大動脈瘤といいます.この解離性大動脈瘤は,自覚症状を出さずにどんどん大きくなっていきます.そして,最終的には動脈壁が破れて動脈瘤が破裂します.大動脈瘤が破裂してしまうと,命を救うことは非常に困難です.したがって,大動脈瘤が破裂する前に ,見つけだし,破裂しないように未然に防ぐことが,命を救う唯一の方法といえるわけです.

 恐ろしいことに,解離性大動脈瘤は,自覚症状がないのです.胸痛や胸が苦しいといった自覚症状が出たときには手遅れであることが多いのです.また,解離性大動脈瘤はスポーツ中に動脈瘤が破裂してしまうことが多いのですが,これはスポーツ中に血圧が上がることがその原因です.したがって,激しいスポーツをやめさせていれば ,死亡事故にはならなかったかもしれないと,スポーツ管理者の責任問題にもなりかねないわけです.

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