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知らないと恐いマルファン症候群  【はじめに】

1.はじめに

 サッカー全日本チームがワールドカップフランス大会出場,全日本バスケットボールチームが世界選手権に男女アベック出場など,近年,日本のトップアスリートの活躍は目覚ましいものがあります.それを支えているのがその種目のプレイヤーの人口の増加と,レベルの向上です.バスケットボールでは,ご存知のように全国大会は, 小学生からママさんまで各種開かれています.胸に日の丸を付けることを夢見ている少年少女から趣味としてバスケットボールを楽しんでいる人々まで含めるとその競技 人口はどのくらいの数のなるのか想像もつきません.競技人口が増えれば増えるほど,われわれ医師,トレーナーの立場ではさまざまな心配が生まれます.各種競技会で怪我や事故への対応策は十分なされているだろうか,本来プレイしてはいけないような選手が無理をしてプレイしていないだろうか,勝利至上主義に走り年齢に応じた訓練の原則を守っていないようなことはないだろうか,テーピングや装具など誤った使い方や考え方をしていないだろうか,などなど,例を挙げればきりがありません.

 その中で,もっとも起こってはいけない事故,それはスポーツ中の死亡事故です. スポーツ中の死亡事故は頻度こそ少ないものですが,一度起これば,遺族の悲しみはもちろんのことですが,管理側の責任,社会的影響等,非常に大きな問題が起こります.近年,さまざまなスポーツでスポーツ中の死亡事故の報告がなされます.ニアミ ス,すなわちもう少しで死んでいたというものも含めればその数は決して少なくはありません.そして,バスケットボールはむしろ多いほうだと言わざるを得ないのです.なぜでしょうか?

 釈迦に説法になり恐縮ですが,バスケットボールは,その競技の性格上,高身長である方が一般に有利なスポーツです.しかし,欧米人のように高身長で運動能力の高い選手はアジアには残念ながら少ないのが現状です.ところが,日本人の中にも”とても背の高い人”が見つかります.この”とても背の高い人”を,バスケットボール 関係者が何とかプレイヤーとして使えないかと考えるのは当然です.こうしてバスケットボール競技には,”とても背の高い人”が多く入ってきます.この”とても背の高い人”も,最近はその運動能力も高まり,チームの柱になっていることが多くなってきました.なくてはならない存在なのですが,スポーツ中の死亡事故に関して多くの危険を含んでいるのが,この”とても背の高い人”なのです.

 医学的に,”とても背の高い人”を,2つのタイプに分けることができます.ひとつめはnormal variant,すなわち正常人であるにもかかわらず”とても背の高い人”です.NBAで活躍する多くの”とても背の高い人”は,こちらに属します.もう一つのタイプは,病的に”とても背の高い人”です.すなわち病気である結果として”とても背の高い人”になっているのです.これには,2つの病気が含 まれています.一つは巨人症です.生まれつきに,脳内の下垂体後葉という場所からでる成長ホルモンという体を大きくするホルモンが正常人よりも多くでることによって体が正常範囲を逸脱して大きくなる病気です.巨人症は比較的馴染みがある病気でしょう.もう一つが今回から連載をさせていただくことになりましたマルファン症候群です.

 マルファン症候群は,あまり馴染みのない病気ではないでしょうか.一昔前,バレーボール女子日本リーグ試合中に,アメリカ人のハイマンという名プレイヤーが亡く なって社会問題になったことを記憶されていらっしゃる方も多いことと思います.こ の事故の原因疾患であったのが,マルファン症候群です.この連載でマルファン症候群とはどんな病気なのか,どうすれば死亡事故を防ぐことができるのかなどを,選手 ,家族の立場から,そしてチームを管理する立場からどうしていけばよいのかを明かにさせていただきたいと思っています.

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