マルファン ネットワーク ジャパン
Why The Marfan Community Needs
The Losartan vs.Atenolol Clinical Trial

 (マルファン症候群集団がロサルタン対アテノロールの治験を必要とする理由)

ロサルタン対アテノロールの臨床治験[正式名:マルファン症候群におけるベーター・ブロッカー治療薬アテノロール)対アンギオテンシンU受容体括抗薬(ロサルタン)の治験]が始まりました。各地域のコーディネーターが治験に参加を希望する方達からの電話やeメールを受け付けています。
 通常は高血圧治療薬として処方されているロサルタンとマルファン症候群で治療を受けている人達の今やゴールド・スタンダードになっているベーター・ブロッカーであるアテノロールの両者を対比する臨床治験を行うには、600人の参加が必要とされています。600人が少しでも早く登録されれば、それだけ意義ある結果が早く出るというものです。
 治験参加者には最大の注意と管理が受けられるよう保証されています。安全管理委員会が治験で収集した全データを保管します。一方の治療が他方の治療に勝るという明白なエビデンスが得られたと判断した時点で、委員会は治験を中止して結果を参加者に周知します。

 私たちがマルファン症候群の治療の根源に関わる疑問への回答を得られる唯一の方法がこの臨床治験なのです。ロサルタンがマルファン症侯群の人達に有効であることを見つけることが医療関係者に治療法として受け入れてもらえる唯一の方法であり、もし効果があるとわかれば、マルファン症侯群の治療のスタンダードとして受け入れられることになります。治療法のスタンダードが確立され効果が立証されれば、ロサルタン治療の費用をカバーする医療保険金を受け取ることがより容易になります。ここには治験が回答を見出だすのに役立っと思われる幾つかの疑問点を列記します。

● ロサルタンは、マルファン症候群を有するハツカネズミの大動脈の成長に影響を与えたと同じ作用で、マルファン症候群の人々の大動脈の発育にも影響するものか?
● ロサルタンは、マルファン症候群の人々全員の大動脈の発育にも影響するのか、あるいは、限られた人達だけになのか?
● ロサルタンは、ある人よりも他の人に効果的ということがあるのか? 若し、そうなら、どのような人達にか?
● ロサルタンを服用し始める年齢によって差が出るのだろうか?
● ロサルタンを服用し始めた時の大動脈径によって差が出るのだろうか?
● 望む効果を得るには、どれくらいの量のロサルタン(服用量)を服用したらよいのか?
● ロサルタンがFDA(米国食品医療品局)に承認されていて安全であると考えられても、一般の人々では見られなかったものの、マルファン症候群の人々では副作用が見られるということはないのか?
● ロサルタンは、マルファン症候群の人々を治療してゆく上で、アテノロールよりも明らかに効果的なのか?

 ロサルタンが数人の重症マルファン小児例に有効であったとの報告があるけれど、マルファン症候群の人々の多くに有効かどうかは知られていません。治験に加わらないで、ロサルタンを服用しないという人の本当の理由があるのです。次の様な理由が含まれます。
● ロサルタンの量(服用量)は誤っていないか/効果の差を得るのに十分な量となっていないのではないか。今まで飲んでいたベーター・ブロッカーの予防効果が失われるかも知れないし、ロサルタンの不適切な服用量では代りにならないかも知れない。
● 治験中に何か不利なことが起こった時は迅速に確認して処理するよう計画されています。しかし、あなたの主治医はこの点について十分に知っていないかも知れない。
● 医学的な見地からどのような方が治験に参加できるかを詳しく記載しています。だれもが治験に参加できるわけではない医学的な理由があります。あなたの主治医は治験を重視した医学雑誌のすべてに精通しているわけではないし、ロサルタンがマルファン症候群の治療の助けになるかもということを理解していないかもしれない。
● 大動脈が外科手術の適応になるサイズに達している人達には、ロサルタンを服用したからといって外科手術が不要になるものではありません。ロサルタンを服用することで有意に拡大した大動脈に起こる解離を予防できると考えるのは危険です。
● すでに大動脈解離で外科手術を受けた人やすでに解離を起こした人でのロサルタンの効果は不明です。ロサルタンの服用が大動脈解離を悪くしたり不安定にすることも考えられます。

 結論として、NMFはこの治験に参加できる会員には急ぎ治験地域の委員に連絡し、治験の詳細を得てほしいと思っています。この治験を通してのみ、私達は:
● ロサルタンがマルファン症候群治療の第一選択薬となり得るかどうかを真に知りたい思っていることへの回答が得られます。
● ロサルタンがマルファン症候群の人々に安全かどうかを知ることができます。
● ロサルタン服用が標準的な治療方法であると医師が了解し、医療保険が治療費用をカバーしなければならないことを決定できます。

治験参加情報
 治験に参加するには、以下の条件が必要で:
● 登録時の年齢が6か月以上25歳未満であること(600人の中の200人が16歳から25歳)。
● マルファン症候群の診断にはGhentの診断基準を満たしていること。
● 大動脈基部の測定で3以上のZ−スコアを有していること(Z−スコアとは体重、身長、体表面積に関係した大動脈径を考慮した計測値)。
● 妊娠していないこと。
● 外科手術の既往のないこと。
● ベーターブロッカーやロサルタンの服用に耐えられること。
● 大動脈拡張以外の医学的な問題でベーターブロッカーを服用する必要のないこと。
● 検査機開で実施するすべての超音波検査を受けることを約束し、また実際に検査を受けることができること。
                        
 治験に登録した人は:
● 身体検査と超音波検査(基準検査)を検査機関で受けます。
● 無作為抽出でロサルタンかアテノロール(ベーター・ブロッカー)を服用するかが選ばれます。治験は二重盲試験で行われ、調査者も参加者も誰がどちらの薬を飲んでいるかを知りません。
● 注意深く現在服用中の薬を中止し、注意しながら治験薬の服用を開始します。
● 基準検査の6か月、1年、2年後に超音波検査を受けます。
● 何か不具合な反応が起きないか注意深く観察されます。




<訳者注釈>
ロサルタン losartan
 一般名はアンギオテンシンU受容体括抗薬。血圧降下薬として高血圧、腎実質性高血圧に適応とされています。ACE阻害薬はアンギオテンシンTを昇圧物質であるアンギオテンシンUに変換させる酵素(ACE)を阻害して、血圧を降下させるのに対し、アンギオテンシンUの働きを直接的に阻害して血圧を下げるのが、この系統の薬です。
 製剤名にはニューロタン(万有)、ブロプレス(武田)、ディオバン(チバガイギー)、カルディス(ベーリンガー山之内)、オルメテック(三共、興和)などがあります。

アテノロール atenolol
 一般名はベーター・ブロッカー。交感神経β受容体遮断薬(ベーター・ブロッカー)として不整脈では期外収縮、発作性頻拍の予防、高血圧では本態性高血圧で他の降圧剤が無効または副作用のため使用不能のとき、狭心症。
 交感神経受容体にはα(アルファ)とβ(ベーター)の2種類があります。アドレナリンがα受容体と結合すると、α効果として末梢血管の収縮、血圧の上昇、腸管の弛緩などが起こります。一方、β受容体と結合すると末梢血管の拡張、心拍数と心筋収縮力の増加、冠血管拡張などが起こります。
 製剤名にはテノーミン(住友−アストラ)、セーブテンス(ファイザー)、アセタノール(アベンティスー中外)、レグレチン(帝国臓器)、アルマール(住友)などがあります。

ゲエントの診断基準 Ghent criteria
 1996年に発表されたマルファン症候群の診断基準で、家族歴・遺伝歴に該当項目の無い場合は少くとも2器官で大基準を満たし、もう一つの器官の罹患がある場合。マルファン症候群を来す変異が家系内で検出されており、1器官で大基準を満たし、もうひとつの器官の罹患がある場合などに症候群と診断されます。しかし、あくまで欧米の成人を対象にした診断基準であり、小児に応用するには限界があり、参考にとどめる必要があります。

翻訳:川田 志明 先生


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