マルファン ネットワーク ジャパン
Marfan 症候群の成因となるmicrofibril/fibrillin 関連記事

Matrix Biology11月号に、Marfan Syndrome の成因となる microfibril/fibrillin 関連の記事が掲載されています。
下記 URL からもフルテキストダウンロードできます。
(解説:名古屋大学医学部保健学科 小林邦彦先生

Journal: Matrix Biology
ISSN : 0945-053X
Volume : 19
Issue : 6
Date : Nov-2000

Visit the journal at http://www.elsevier.nl/locate/jnlnr/05547

記事をより理解するために参考画像 (NMFより)


pp 455-456
Pathophysiology of the microfibril/elastic fiber system: introduction
F. Ramirez
次の3つのミニレビューを特集する全体のまとめ(序)です。

弾性線維は、身体のどこにも多かれ少なかれ存在しますが、とくに周期的に力の加わる組織には豊富に存在します。
最近20年で、この線維を構成する成分やその構造が詳しく分かるようになり、また、その異常による病気についても明らかにされてきています。
弾性線維の基本の構造は、組織によってその量比や配列は異なりますが、芯に架橋したエラスチン elastin があり、まわりを細い線維(マイクロファイブリル microfibril)が取り巻いているものです。エラスチンがなくてマイクロファイブリルだけの構造も、あちこちにあります。エラスチンはエラスチンというタンパク質でできています。マイクロファイブリルのほうは、おもにフィブリリン fibrillin というタンパク質でできています。フィブリリンタンパク質にはフィブリリン-1とフィブリリン-2というよく似た2つがあることが分かっています。
フィブリリン-1遺伝子の突然変異で Marfan Syndrome (MFS) がおこり、フィブリリン-2遺伝子の突然変異 mutation (アミノ酸が別のアミノ酸に置き換わったり、長さの違うタンパクができる)ではこれと類似の先天性拘縮性くも指症 congenital contractural arachnodactily がおこります。エラスチン遺伝子の突然変異では弁上部狭窄 supravalvular aortic stenosis (SVAA) がおこることが分かりました。
患者の遺伝子配列の分析や超微形態観察や、異常遺伝子を導入した実験動物での実験から、発症の機構が明らかになりつつあります。
フィブリリン-1遺伝子の変異でカルシウム結合能が失われ、タンパクが不安定化し、マイクロファイブリルがうまくできないことが、機能する弾性線維ができないことの原因になっているようです。

pp 457-470
Fibrillin: from domain structure to supramolecular assembly
P.A. Handford, A.K. Downing, D.P. Reinhardt, L.Y. Sakai
その遺伝子の変異で Marfan Syndrome (MFS) の原因となるフィブリリン fibrillin タンパクの構造と、分子内の場所ごとの機能、分子の集合 assembly(マイクロファイブリル microfibril、微細線維を形成)について、明らかになったことが説明されています。タンパク質はアミノ酸がひも状に繋がったもの(一次構造)で、その場所ごとに、役割があります(ドメイン domain 構造)。紐の中の限られたところでシステインというアミノ酸同士で結ばれていて(二次構造)、実際には延びた紐ではなく特定の形で纏められて、所々に「こぶ」のあるひも状をしています(三次構造)。全体としては細長く、これが何本も集まってマイクロファイブリルを作ります。このタンパク質のどこかに突然変異が起こるとMFS になるのですが、変異の起こる場所と変異したアミノ酸によって症状も違うことが予想されます。調べられた数十の変異から、現段階で推定される発症の機構を推定しています。まだ説明できないことも残されています。

pp 471-480
Genetic disorders of the elastic fiber system
D.M. Milewicz, Z. Urban, C. Boyd
弾性線維系を作るタンパク質はエラスチンとフィブリリンですが、それぞれの遺伝子の異常によって起こる病気と突然変異の関連について説明しています。フィブリリンにはフィブリリン-1とフィブリリン-2という2つのタンパク質があり(これに対応する2つの遺伝子がある)、フィブリリン-1の突然変異で MFS が起こります。100人以上の患者から、遺伝子変異(位置と変異の性格)が調べられていて、個々でみんな違うようです。ある場所の付近での異常でとくに重症になることは言えますが、それ以外では、場所と臨床症状の関連は付けられないようです。多くの変異は、カルシウム結合性上皮成長因子ドメイン cbEGF domain (フィルリリン-1の中に47個所ある)の中で起こっています。多くの例では遺伝子が替わったためにアミノ酸が別のものに置き換わっていて(missense mutation)、フィブリリンとしての正しい機能ができなくなり、マイクロファイブリルを作れないと推定されます。マルファン症候群は“常染色体性優性遺伝”ですので、正常な遺伝子からできたタンパク質が半分はあるわけですが、それにもかかわらず発症するのは、正常遺伝子から作られたフィブリリンがマイクロファイブリルに組み込まれるのも異常タンパクによって妨害されるからです(dominant negative pathgenesis)。MFS 以外の病気も解説。

pp 481-488
Mouse models of genetic diseases resulting from mutations in elastic
fiber proteins
H.C. Dietz, R.P. Mecham
フィブリリン-1とエラスチンの突然変異遺伝子を持つマウスでそれぞれ MFS と弁上部狭窄 supravalvar aortic stenosis (SVAA) のモデル動物を作り、これらの遺伝子の役割や特定の病気の発症機構を明らかにしようとする研究の紹介。変異遺伝子とその組み合わせを変えるとことで異なる症状も示す場合もあるようです。


参考解説(松崎修さんによる)
遺伝子疾患の原因遺伝子の解明は、一般的に以下のような手順で進められることが多いようです。

1、新しい遺伝子Aが発見された際に、その遺伝子Aが存在する位置(何番目の染色体のどこに存在するか)を確定する。

2、染色体上のその付近に原因があると言われている症候群を探す。B症候群が見つかったとします。A遺伝子がコードするタンパク質が、何らかの形でB症候群と関係しそうだとします。(例えばA遺伝子が結合組織のタンパク質をコードし、B症候群がマルファン症候群とであった場合などです。)

1と2の結果より、B症候群の原因遺伝子としてA遺伝子が有力候補となります。

3、その症候群に属する患者さん(できるだけ多い方が望ましい)の遺伝子Aの塩基配列を解析して、実際に突然変異が起こっていることを実証する。

実証できれは、その段階でA遺伝子がB症候群の原因遺伝子として完全に確定します。その後、以下の流れで、A遺伝子が変わることによってどのようにB症候群を発症するのかを解析することになります。

4、突然変異の生じたA遺伝子から作られるタンパク質の形や機能を、本来のA遺伝子から作られるタンパク質と比較し、その違いを詳細に解析する。その解析結果をもとに、A遺伝子の突然変異がB症候群の症状をきたす理由を考察する。

5、ネズミを用いて、人為的にA遺伝子に突然変異を起こし、実際にネズミにB症候群と同様の症状が現れることを示す。(これがいわゆる動物モデルといわれるもので、治療薬の開発には欠かせない方法です。遺伝子疾患以外の一般の病気では、化学物質を使って、ネズミを発症させます。)

今回小林先生が紹介して下さった論文は、
1番目のものは2番目以降の論文の紹介、
2番目のものは、上記の4番に相当する部分の論文
3番目のものは、上記の3番4番に相当する部分の論文
4番目のものは、上記の5番に相当する部分の論分
になります。




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