マルファン ネットワーク ジャパン
知らないと恐いマルファン症候群  

4.心肺蘇生法(一時救命手当て)

 本誌の読者の多くは医師以外の方々だと思いますので,実際にスポーツの現場で行われるべき一時救命手当てについてまとめていきます.

 救急の現場で患者が特に生命の危機にさらされる状態は,以下の3つの状態です.  

  1. 呼吸あるいは心停止  
  2. 大出血  
  3. 意識消失
 ヒトは生命を維持するために,空気中の酸素を肺のなかに取り込み,取り込まれた酸素は血液を介して全身に運ばれます.また,ヒトのからだは酸素なしで一定時間生きながらえることができるようになっていますが,最も重要な脳神経細胞は3分間の酸素欠乏で組織が死んでしまいます.すなわち,スポーツの現場でもしも選手が倒れ ,生命の危機に脅かされている場合,選手の命を救うのは病院にいる医師ではなく, その現場に居合わせた人々であることはお分かりいただけると思います.選手が倒れた現場で正しい処置が施されなかった場合,救急車が来たときにはすでに手遅れであることがほとんどです.そこで,ぜひ,読者の皆さんに一次救命手当ての方法をもう 一度おさらいしていただきた思います.

 選手がスポーツの現場で急に倒れた場合, 次のことを覚えておくとよいと思います.それは,ABCという言葉です.

 AはAirway=気道の確保,BはBreathing=人工呼吸,CはCir culation=循環(心臓マッサージ)です.

 呼吸は生命を維持するうえで,欠くことのできないものです,呼吸によって,空気は鼻や口から取り込まれ,気管,気管支を通って末梢の肺胞まで運ばれます.そこでガス交換が行われ,酸素が血液中に取り込まれ,血液中の二酸化炭素が肺胞中に排出されます.肺胞中に排出された二酸化炭素は気管支,気管を通って鼻や口から空気中吐き出されます. この空気の通り道を気道と呼んできます.Aの気道の確保は,一時救命手当ての最初に行うべきであるということが,お分かりいただけると思います.(気道確保の方法 は9月号を参照して下さい)

 次にBの人工呼吸ですが,患者自らが行う呼吸(自発呼吸)がない場合には,躊躇なく人工呼吸を行います.いくつか方法があるうち,最も有効と言われているのが, マウス・ トゥ・マウス法です.(10月号を参照して下さい)AとBを行うことによって,倒れた選手に酸素を与え,二酸化炭素を排出させることができるようになります.

 最後はCの心臓マッサージです.心臓が停止しているのに人工呼吸だけを続けても ,動脈血が循環しないので無意味です.そこで,心臓マッサージを行うわけです.人工呼吸は,自発呼吸が弱い場合にも行いますが,心臓の場合には,注意して行う必要があります.すなわち,自己心拍で心臓がわずかに動いている場合には,心臓マッサ ージは行いません.したがって脈拍のチェックを注意深くしてから心臓マッサージに 行う必要があります.(脈拍の確認,心臓マッサージの方法は11月号を参照して下 さい)

 BとCの人工呼吸と心臓マッサージは,患者の呼吸が回復し,心拍動が再開するまで,行います.また,回復が見られない場合には,救急車が到着するまで継続して行わなければなりません.

 以上が,心肺蘇生法の基本概念ですが,心肺蘇生法には一人の患者に対して一人で行う方法と,二人で行う方法があります.ABCの一連の動作はかなり体力を要するので,二人で行う方法を覚えておくと,いいと思います.(二人で行う心肺蘇生法は12月号を参照して下さい)

   1年間,連載させていただきましたが,この連載がバスケットボール関係者にマルファン症候群を身近なものとしてとらえていただき,その対策を少しでも考えていただくことが出来れば,そして,悲惨な事故が1件でも減ることにつながれば幸いです.  トレーナーを目指す人々は少なくとも知っておかねばならない特集でした.その他にもトレーナーは知らねばならないことがたくさんあります.慶應スポーツクリニックでは,月曜日の夜に私を中心に,スポーツ医学勉強会を定期的に行っています.学生からプロのトレーナーまで参加している会です.参加資格はありません.スポーツ 医学に,トレーナー活動に興味のある方はどなたでも参加できます.参加御希望の方は下記連絡先まで是非御連絡下さい.

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