マルファン ネットワーク ジャパン
知らないと恐いマルファン症候群  

3.心肺蘇生法(一次救命手当て)

 9月号から,一次救命手当てについてお話ししています.選手がスポーツの現場で急に倒れたときに,取るべき対処法の手順を覚えるのに便利な言葉があります.ABCでしたね.Aは,Airway気道の確保でした.

救急の現場で患者が特に生命の危機にさらされる状態は,以下の3つの状態です.  

  1. 呼吸あるいは心停止  
  2. 大出血  
  3. 意識消失
 ヒトは生命を維持するために,空気中の酸素を肺の中に取り込み,取り込まれた酸素は血液を介して全身に運ばれます.また,ヒトのからだは酸素なしで一定時間生きながらえることができるようになっていますが,最も重要な脳神経細胞は3分間の酸素欠乏で組織が死んでしまいます.すなわち,患者の命を救うことが出来るのは,倒 れた現場で正しい処置が施されれたときにかぎるということが出来ます.正しい処置 が施されなかったときには,救急車が来たときには,すでに手遅れであることがほとんどでしょう.そこで,是非みなさんにも,一次救命手当ての方法を知っておいていただきたいと思います.

 選手がスポーツの現場で急に倒れた場合,次のことを覚えておくとよいと思います .それは,ABCという言葉です.この順に手当てを行っていけば,正しい一次救命の手順になるのです.

 まず,Aとは,AirwayのAです.すなわち,気道を確保することです.呼吸は生命を維持するうえで,欠くことの出来ないものです.呼吸によって,空気は鼻や口から取り込まれ,気管,気管支を通って末梢の肺胞まで運ばれます.そこでガス交換が行われ,酸素が血液中に取り込まれ,血液中の二酸化炭素が肺胞中に排出されま す.肺胞中に排出された二酸化炭素は,気管支,気管を通って鼻や口から空気中に吐き出されます.この空気の通り道を気道と呼んでいます.気道を確保することは,一次救命手当ての最初に行うべきことであるということはお分かりだと思います.

 次にBです.BとはBreathing呼吸です.患者自らが行う呼吸(自発呼吸 )がない場合には,躊躇なく人工呼吸を行います. 人工呼吸には,最も有効なマウス・トゥ・マウス法やホルガー・ニールセン法等があります.具体的な方法は10月号をご覧ください.

ABによって,倒れた選手の肺に,酸素を与え,二酸化炭素を排出させることが出来るようになりました.つぎに何をするべきでしょうか?肺に入った酸素は肺胞において,ガス交換により動脈血となります.この動脈血が全身,とくに脳に行き渡らないと倒れた選手は助かりませんね.そうです.心臓を動かさねばなりません.

 Cです.Circulation循環です.

心臓が停止しているのに人工呼吸だけ続けても動脈血が循環しないので無意味なのです.弱い自発呼吸があった場合に人工呼吸を行うことはそれほど障害にはなりませんが,心臓の場合には,たとえ弱くわずかでも自己心拍で動いている場合には注意が必 要です.

 心臓が停止しているかどうかは,脈拍のチェックを行えばいいわけです.心マッサージを開始する前には必ず行ってください.最も信頼できる心拍動の確認方法は頚動脈の拍動をチェックすることです(図1).頚動脈の拍動に触れる部位は,通常,ア ダムのりんごと呼ばれる甲状軟骨から外側に指をずらしていき,発達した筋肉(胸鎖 乳突筋)の裏の方です.通常,脈拍のチェックは皆さんは,手首の動脈(橈骨動脈)で行われていることと思いますが,救急時にはこの部位はまったく信用できないということを覚えておいてください.頚動脈による脈拍のチェックは,1分後にももう一回行い,その後も3分間隔で継続して行います.

 さあ,いよいよ心マッサージです.心マッサージは胸骨圧迫により行います.心マッサージを効果的に行うには,患者を板のような堅いものの上に仰向けに寝かせて行います.患者の横に膝まずき,ろっ骨と胸骨下縁の境目を確認し,そこから指2本分 上のところに手のひらを置き,マッサージします(図2).その時に指がろっ骨に触れないようにします.もう一方の手を重ねて指を絡めて力が入るようにします(図3 ).自分の肩を患者のろっ骨の真上にして,肘を伸ばして行うと力が入れやすいと思います(図4).からだを前傾し,心臓に対してまっすぐ垂直に力が加わるようにマ ッサージを行います.その強さは,成人で胸郭が4〜5cm沈む程度とします.圧迫のスピードは,1分間に80回の割合で行い,これを15回続けて行います.規則的に,かつ,一定の強さで行わなければいけません.1,2,3...というように, 数えながら行うといいでしょう.心拍動が再開したら心マッサージは直ちに中止します.

 次回は,心肺蘇生法ABCを実際に二人で行う方法について,お話しします. この原稿を書く直前に,宮城県の方から検査をどこに受けに行けばいいのか等の御質問を受けました.直接,電話でお話しすることが出来,非常に有意義でした.勇気をもって御連絡いただいたことに深く感銘しました.マルファン症候群に関する御質 問や,救急法に関する御質問は,どうぞ御遠慮なく編集部まで御連絡ください.誠意をもって御回答させていただきます.一人でも多くの命を救うことが出来れば,一医 師として最高の幸せです.どうぞよろしくお願い申し上げます.

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