マルファン ネットワーク ジャパン
知らないと恐いマルファン症候群  

3.心肺蘇生法(一次救命手当て)

前回から,一次救命手当てについてお話ししています.選手がスポーツの現場で急に倒れた時に,覚えておくとよい言葉がありました.ABCという言葉です.この順に手当てを行っていけば,正しい一次救命の手順になるので,是非覚えておいてください.

 復習です.Aとは,AirwayのAです.すなわち,気道を確保することです. 呼吸は生命を維持するうえで,欠くことの出来ないものです.体内の空気の通り道を 気道と呼んでいます.気道を確保することは,一次救命手当ての最初に行うべきことであるということはいうまでもありません.気道確保の方法については,9月号をご覧ください.

 今月は,ABCのB,Breathing(呼吸)についてです.

 A:Airway気道の確保の次に行うのが,B:Breathingです.自発呼吸(患者自らが行う呼吸のこと)がない場合には,躊躇無く,人工呼吸を行います.

 人工呼吸を最も効果的に行う方法は,救護者自身の呼気で患者の呼吸を行わせるもので,マウス・トゥ・マウス(口対口)人工呼吸とよばれています.瀕回の嘔吐(おうと)を繰り返す場合や,何らかの薬物中毒や感染症が考えられる場合には,マウス ・トゥ・マウス人工呼吸を行うことが出来ない場合には,ホルガー・ニールセン法という人工呼吸法がありますが,マウス・トゥ・マウス人工呼吸ほど効果的ではありません.マウス・トゥ・マウス人工呼吸法はあらゆる年齢層に対して最も使いやすく, 大部分の環境・状況でも使用できる方法なので.,ここでは,一般的なマウス・トゥ・マウス人工呼吸についてお話しします.

 われわれの呼気(吐き出す空気)に含まれる酸素濃度は16%です.大気中の酸素 濃度が20%ですから,大気よりもすくないわけですが,患者の生命を維持するには 十分な酸素濃度なのです.マウス・トゥ・マウス人工呼吸は,救護者の口を患者の口 ,または,鼻(このときはマウス・トゥ・ノーズ人工呼吸とよばれる)にあて,患者の頭部を後屈(あごを突き出させるようにする)しながら,呼気を思いきり吹き込み ます.小児の場合には口と鼻の両方を使って人工呼吸(マウス・トゥ・マウス・アン ド・ノーズ人工呼吸法)をおこないます.このとき,患者の胸部が上がることを確認できれば,うまく吹き込めているということです.うまく吹き込みができたら,口を 離せば自動的に患者の胸郭(きょうかく)の弾性の作用により患者の呼息が行われま す.マウス・トゥ・マウス人工呼吸において,注意することは,常に患者の胸郭の動きに注目しながら行うということです.この胸郭の動きは,肺胞(肺の奥で血液中に 酸素を与え,血液中の二酸化炭素を放出させるところ)が十分に換気されているかどうかの指標となります.すなわち,マウス・トゥ・マウス人工呼吸中に患者の胸郭が十分に動いていれば,患者の呼吸はうまくいっていると考えて良いということです. それと同時に患者の顔や口唇の色の変化にも注意を払います.患者の顔や口唇は,蘇生がうまく行けばピンク色に回復してきます.逆に呼吸が止まるとチアノーゼといって,青白くなってきます.患者を発見したら,まず素早く2回のマウス・トゥ・マウ ス人工呼吸を行います.いたずらに長時間を費やして気道閉塞の原因を探すようなことがあってはいけません.まずは2回吹き込みです.

 さて,実際にやる方法について,解説しましょう.図1〜4をご覧ください.

 図1は,9月号でも解説した図です.明らかな気道閉塞物を取り除き,気道を確保 し,口やのどの中にみられる嘔吐物(おうとぶつ)を取り除きます.

 図2です.口を大きく開き,大きく息を吸い込んだ後,患者の鼻をつまみ,患者の 口を救護者の口で覆います.

 図3です.呼気吹き込みを行います.患者の胸が息の吹き込みに合わせて十分膨らむことを確認します.胸が十分膨らまないときには,気道が確保できていないことを想定し,頭部や下顎の位置が適切であるかどうかをもう一度確認する必要があります.

 図4です.十分呼気を吹き込んだ後は,口を離して,患者の呼気が自然に出てくるのを確認し,同時に胸郭が沈むのを目で確認します.そして,引続き,次の呼気吹き込みに移ります.2回人工呼吸を行ったら脈拍をチェックし,心臓が再び動きだしたかどうかを確認します.もしも,心臓が動きだしたら,呼気吹き込みは1分間に12 〜16回のペースで行い,自発呼吸が再開されるまで続けます.もしも,心臓が再び動き出さないときには,来月号で解説する,心マッサージを行います.

( 3 / 3 )
一つ前へ 



知らないと恐いマルファン症候群 > 第7回(3)