マルファン ネットワーク ジャパン
整形についてのQ&A
Q-04
「成長を抑えるホルモン療法について」
小学校4年マルファン症候群の娘についてお尋ねします。娘は現在身長150センチ、体重28キロです。身長が高く、抑えることが出来ないかと思っていたところ、アメリカでは、マルファンの成長期の子供が、身長を高くなり過ぎるのをおさえるため、ホルモン療法をしていると聞きました。そこで、次の5つの点について、お伺いします。
1、ホルモン療法とは何なのか?
2、背を伸ばすための内分泌療法はよく聞くことがありますが、反対に背を小さく抑えることはできるでしょうか?
3、ホルモン療法の体に与える副作用などはどういったことがあげられるのか?
4、実際に国内でこの治療を実施できる医療機関はあるのか?
5、何歳くらいまでに実施すると効果が得られるのか?
今年の夏、医大に検診に行って、たずねたところ、成長をとめるホルモン療法は聞いたことがないが、調べてみて、何か分かれば次回の冬の診察時に教えて下さると言うことでした。ホルモン療法についてはいろいろ考え方があって、難しい問題だとは思いますが、いろいろな治療や情報を知ることは大切だと思います。どうぞよろしくおねがいします。
(1999年9月/長崎/小学4年生の母)

A-04
臨床小児科という英語の雑誌に掲載された総説で,筆者はSotos症候群という巨大児の症候群を報告したSotos先生です.
Clinical Pediatrics 35(10): 517-29, 1996 Oct.
Sotos JF. Overgrowth disorders
高身長女児へのエストロゲン療法,高身長男児へのテストステロン療法,そして肥満児のホルモン環境などに関する話が文献リストも含めて17ページにわたって書かれています.
家族性や遺伝性の高身長女児では,精神的な影響もさることながら成長のスピードの速さにより脊椎の彎曲を悪化させることが問題となるようです.その他にも航空機の搭乗やバレー教室への入会にまで制限のあることをこの論文で初めて知りました.ごく一部のこと
なのでしょうが.
療法に関しては,一般の高身長女児に対するものを中心に書かれています.エストロゲン療法自体は1956年からあるようで,治療例もかなりの数になるようです.副作用の調査も904例に対して行われており,脚の外傷後の女性に血栓症が起きたことが報告されていましたが,他に重篤な副作用の発生例はなかったとのことです.
治療の適応に関しては,親や本人の同意の下に行うのは言うまでもありません.この場合には,今までの成長から推測される最終身長を計算して,178cmから180cm以上になると考えられる場合などに限って行うとのことです.治療の開始は,11歳以降かつ性徴が現われてから開始するのが普通であるとされています.具体的に側彎の進行を防ぐ効果がどの程度あるのかなどに関しての記述はありませんでした.
エストロゲン療法自体は更年期障害の女性や卵巣を手術で除去せざるを得なかった女性などに対して普通に行われているものですが,使用するホルモンの量はそれよりもかなり多目の量になります.従って副作用の発現の有無のチェックや治療効果の判断などのために定期的に診察を受けることが不可欠となります.
身長の低い方を対象として成長ホルモン療法はすでに,一般的となって来ています.確かに「ホルモンの力まで借りて身長を伸ばしたいか?」という批判もあるようですが,女性ではある一定の身長にならないと初潮が発来しなかったり,事務機器や家具,自動車や電車なども通常の身長の範囲にある人間を中心に作られているため,さまざまな不便を強いられることも事実です.このため,低身長の方で,何種類かのテストの結果,成長ホルモンの分泌障害があることが明らかである人に限って,審査制で成長ホルモン療法を行うことが認められています.この中には症候性の方もおられますし,身長が低い以外は全く健康な方も含まれています.後者の場合は社会的適応として治療の対象になります.
それでも手や足の長さが短いような場合には,骨の延長手術が必要になることもあります.これに対しても,身体変工であるとして,批判があります.しかし,思春期を過ぎていながら,お尻に手が届かないために,ウォシュレットしか使えない人たちも少なくありません.自分自身の手でお尻を拭きたいがために,1年以上の入院と手術に耐える子供達がいるのも事実です.
高身長に関しましても,つたない経験からしてもそれが原因で神経性食思不振症になってしまった女の子や,さらに深刻な精神状態になってしまった(こちらは高身長だけが原因かどうかは不明)などの例もあります.一概にホルモン療法を審美的治療の範疇には含め
られないような症例もあることを心にお留め置き願えれば幸いです.
ただ,もとより平均身長の高くなかった日本のことですので,私も今回のお問い合わせで初めてこの治療法を知ったように,まだまだ日本の中ではエストロゲン治療の経験は浅く,その適応などに関してもしっかりとした指針は出来ていないようです.そして,副作用に関しても,Sotos先生の総説では1/1000〜1/10000との数字ですが,個人的には心配なところです.
側彎の強いMarfanの患者さんを拝見していると,やはりこれが内科的治療で何とかなるなら,選択肢のひとつとして考えたい治療ではあるのですが….
長々と書いてしまいましたが,ご参考となれば幸いです.
1999年10月4日(月曜日)
東京医科大学病院 小児科 沼部 博直

<お母さまからのその後の経過報告>
今年8月末に定期検診を受け、もう一度ホルモン療法のことを、内分泌専門の先生とお話してきました。
女性ホルモン(エストロゲン)を多量に与え、早く排卵をおこすことによって、その後の身長の伸びを押さえることは、エストロゲンと黄体ホルモンを同時に与えることで、副作用は心配いらないということでした。でも血栓ができやすいというのは確かなので、うちの子の場合、大動脈弁の逆流があると言う点からは、そのリスクを考えると、あまり勧められないというものでした。現在の身長の伸び具合と体内ホルモン量からすると、まだ伸びは続く様です。
結論として、自然にまかせようと思います。
○○医大では、男の子に今まで一度だけ試されたことがあるが、十代の後半だったこともあり、期待する程の効果が得られなかったと言うことです。やはり年齢的なこともあるので関心のある方は、速めに相談された方が良いと思います。
子どもが通っている○○医大では、5月より「遺伝外来カウンセリング室」という部屋ができました。8月の受診はその時点で行われましたが、いつもの部屋と違うし、部屋のドアに、遺伝の文字がついているので戸惑いました。待ち合い室も産婦人科外来と同じところなので落ち着きませんでした。一番心配なのは、子どもがまだ、その意味を知らないことです。
(2000年9月25日郵送)

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