マルファン ネットワーク ジャパン
マルファン症候群についてのQ&A
Q-02
「「血管の病気」(岩波新書)の平均寿命”30歳”という記載について>MNJアドバイザー高本先生」
同封させていただきました「血管の病気」(岩波新書)のなかにマルファンの平均寿命”30歳”という記載がありました。(注1)この平均寿命算出の根拠もしくは参考文献等について知見をお持ちでしたら御教えいただけないでしょうか?なんらかの算出根拠等があっての数値とは思いますが、御専門の高本先生の御助言をいただければ幸いに思います。
注1:田邊達三 著 岩波新書 血管の病気 p149
に、「平均年齢は三十歳前後と言われ、大半は心臓血管の病気で亡くなる」と記載されています。

A-02
お尋ねの田邊達三先生が岩波新書「血管の病気」という本で「マルファン症候群の平均寿命は30歳前後ーーーー」と書かれている件ですが、これは治療しないならば、平均寿命は30歳前後であると読んだ方がよいと思います。マルファン症候群は動脈瘤として発症するのは10代後半から20代にかけてですから、手術しないとなるならば、30歳前後で破裂すると考えられますし、普段やはり臨床で同様のことを経験します。しかし、動脈瘤を早めに手術治療するならば、十分に長生きが可能と考えられます。
ですから、10代の後半になるとそのつもりで、心臓、全身の大動脈の検査(超音波、CTなど)をして、異常が見つかれば、毎年経過観察をすることにし、異常が無くても2年に一度は検査をするとよいと思います。胸部大動脈が拡張してきますと、普通の人は径が5.5cmとなりますと、手術適応になりますが、マルファン症候群の方は5cm位で手術を早めにした方がよいと思います。現代の医学は年年進歩してきまして、体のどこに大動脈瘤ができても手術が可能となりました。特にマルファン症候群の患者さんは大体若くて体力的には十分余力がありますので、手術にも十分耐えられる体力を持っています。従って、通常の胸部大動脈瘤の手術も手術の危険率が5%以下でできると考えられます。勿論、治療にあたる医師は危険を0にしたいと考えて努力をしていますが、どの患者さんもということになると、ある程度の危険は覚悟しなければなりません。マルファン症候群の患者さんは1カ所手術してもまた次の場所、あるいは他の場所が大動脈瘤となる可能性がありますので、外科医は同じアプローチで手術できる範囲はできるだけ置換ないしは何らかの治療をして、同じ場所では手術しなくてもよいように工夫します。というのは同じ場所を手術すると癒着が大変で手術時間も大幅に増加します。そして、次回の手術が楽になるような工夫もします。
このようにして、全身の大動脈を全置換した患者さんも少しづつ増えてきました。それぞれの手術にはそれぞれの危険はありますが、手術後もまた通常の生活に戻っています。大動脈を全置換した患者さんはさらに大動脈瘤になることはありません。他に気をつけることは、僧帽弁閉鎖不全症という弁膜症や眼科の水晶体脱臼などですが、これらは大動脈瘤ほど緊急に治療を要するということは通常ありませんので、病院の外来にかかって担当医と治療法を相談すればよいと思います。気胸はたまに起こり、胸痛とともに呼吸苦がありますが、これも胸部レントゲン写真で分かりますし、呼吸苦がひどければ救急外来で診てもらえばよいでしょう。胸痛も大動脈瘤破裂あるいは大動脈解離のような激烈な痛みではありませんし、緊急性も大動脈瘤ほどはありません。
以上のように現代の医学は大きく進歩しましたので、マルファン症候群の方たちも十分に長生きできますし、我々医師はそのためにできるだけのお手伝いをしたいと考えています。頑張りましょう。                   
  敬具
2000年2月27日
東京大学医学部心臓外科 教授
       高 本 眞 一

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