マルファン ネットワーク ジャパン
遺伝についてのQ&A
Q-02
遺伝子検査&染色体検査について
1、採血のみで分かるのでしょうか?
2、検査料はどの位かかるのでしょうか?(病院によって違いますか?)
3、どこの病院でも検査をしてくれるのでしょうか?
4、生まれて来る子供がマルファンであるかどうかをいつ調べることができるか、可能な時期、また適切な時期等あればご意見をお願いいたします。
5、出産をするのは個人の産婦人科ではなく、総合病院を選ぶべきなのか。生まれてくる子供がマルファンであった場合、個人の産婦人科では対応できないような状態で生まれてくる可能性があるのかどうか。
6、生まれてくる子供に遺伝した場合、親と比較して症状の程度は?
マルファンの遺伝子診断はどこの施設に頼めばよろしいでしょうか?

A-02-1
Marfan症候群の診断は,現在のところ,1996年にPaepeという方の 提唱された診断基準に従って行われることが多くなっています.
 診断基準というのは,どのような症状があるのかを細かくチェック して,一定の基準以上の症状がある場合に,その疾患である可能性が高いと判断するものです.
症状の内容には,簡単に判断できるものから,熟練した医師でないと判断が困難であるものまで含まれますので,一定水準以上の専門医でないと診断が難しい点もあるのも事実です.

Marfan症候群で異常の認められるfibrillin遺伝子は,DNAの数にして,20万程度の長さであると考えられています.その中で,肝腎なタンパク質を作る命令が書かれている部分は1万弱の長さですが,それにしても,これだけの長さのDNAを検査で調べることはなかなか難しいのが現状です.DNAの塩基配列を調べるのには500くらいの長さを調べるためだけでも数万円の費用がかかります.
従って,全ての塩基配列を調べるためには,現在の技術では100万円を越す費用が必要となります.
研究として遺伝子を解析している施設はいくつかありますが,実際には限られた検査しか行っておらず,外部からの依頼を受けてくれる施設は今のところ国内にはありません.

このfibrillin遺伝子が大きな遺伝子であり,上記のように直接その配列を調べるのが困難であるため,この遺伝子の周辺のDNAの配列を調べて,患者さんである方がそうでない配偶者とDNAの配列が異なっている場合には,同じ検査を胎児に行ってその胎児が患者さんであるか否かを推定するという連鎖解析という方法が用いられる場合もあります.しかし,これも,診断を確実なものにするには,他の親族の中の患者さんの検査が必要となったり,せっかく検査を行っても,診断不能という結果が出ることもあり,必ずしもきちんとした結果が出せるとは限りません.

従って,現在のところ,Marfan症候群の遺伝子診断は,かなり難しいのが現状です.
ただし,新生児期に重い症状の出る新生児型のMarfan症候群では,遺伝子の異常のある部位がある程度,限られていますので,重症の新生児型Marfan症候群のお子さんを持たれた方が,次のお子さんをお考えの場合などには,遺伝子検査を行うことを考えても良いのではないかと思います.

なお,染色体検査により,Marfan症候群が診断出来ることは,事実上,ありえません.染色体検査はDNAのかたまりとも言うべき染色体を顕微鏡で観察して,その数や形態に異常がないかを調べる検査です.染色体は,染色液により縞模様のひも状に見えますが,この一部が欠けて見える場合には,DNAにして最低でも50万個分は欠けています.fibrillinの遺伝子はかなり大きいのですがそれでも20万ですから,この遺伝子がまるごと欠けていても染色体検査では異常が見つかりません.
また,この遺伝子の周辺が実際に欠けて見える場合にはfibrillin遺伝子だけではなく,その周辺の他の遺伝子も欠けている可能性があり,通常は早期に流産してしまい,胎児としては成育出来ないのではないかと考えられます.

ご質問にありましたMarfan症候群の親子での症状の違いに関してですが,本症候群の症状は同じ家系内でも程度に差があります.しかし,先に述べました新生児型のMarfan症候群のお子さんが通常のMarfan症候群のカップルから誕生することは,まずありません.従いまして,父親がMarfan症候群である場合には,そのお子さんが本症候群であったとしても新生児期に緊急性を要する事態を生じることは考えにくいのですが,ご両親の立場として少しでも不安があるようでしたら,少なくとも新生児の診療が可能な医療施設での出産をされるのが良いと個人的には考えます.(2003/2/25)

学校法人東京医科大学 総合情報部情報システム室 室長
東京医科大学 医療情報学教室 講師
東京医科大学病院 遺伝子相談室
東京医科大学病院 小児科  医師  沼部 博直


A-02-2
1. 染色体と遺伝子
検査の前に、テレビや雑誌でよく言われていて、区別がつきにくいものに、DNA、 ゲノム、遺伝子、染色体という言葉があります。これについて簡単にご説明します。
DNAがデオキシリボ核酸という物質で、4種類の塩基からできています(アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T))。これらが30億つづいていくと、人間の設計図ができます。例えば、AATTCGGTTGGCTCCCAAGT-------(30億)-----------と言う具合です。30億という数字がどれくらいかというと、1つが1mmと仮定すると、3000 kmになります。簡単にいうと沖縄から北海道まで(約3000km)を1mm間隔でこれらの塩基がどうなっているかを決定すれば、人間の設計図が出来上がると言うわけです。このDNAが30億塩基対あると人間の設計図ができると言いましたが、このように過不足がないセットのようなものをゲノムといいます。このヒトゲノム(30億)の全配列を決定してしまうと言うのが、ゲノムプロジェクトと言われているもので、今年の3月(つまり来月)には終了と言われています。遺伝子とは、DNAの中で、タンパク質をつくったりする、重要な意味をもつところで、全DNAの5%前後と言われています。この遺伝子の数ですが、以前は、5-10万個と言われていましたが、ゲノムプロジェクトの結果下方修正されて、3-4万個とされています。これは、バッタや蝶の約2倍の遺伝子だそうです。これらを海でイメージすると、海すべてがDNA(またはゲノム)で、遺伝子はその中で島にあたる部分だけをいうという感じになりますでしょうか。染色体はDNAがある腫の蛋白質にぐるぐる巻かれているものです。どれ位、グルグル巻に縮められているかといえば、約10万倍といわれています。つまり、10mの糸をぐるぐる巻に縮めて1mmにしてしまうと言うことになります。
通常の染色体には、ある染色を行うとスジが見られます。そのスジのパターンで、何番染色体かを決定することになりますが、だいたい、大きい順に染色体は番号がふっています(1番染色体が1番大きいということです)。全ての染色体のスジを数えると通常の染色体検査で約350位になりますが、そのスジの1つがDNAでいうと、1000万〜1500万塩基対にあたると想定されています。
つまり、染色体の1つのスジがないとすれば、それは、DNAの立場からすれば、1000万以上の塩基が無くなっているというとんでもないことになっていることになります。

2. 染色体検査と遺伝子検査
染色体の状態を見ることが染色体検査で3ー4万種類のうち、ある原因となっている遺伝子を調べるのが、遺伝子検査となります。最近は、遺伝子検査と染色体検査が融合したような検査(フィッシュ検査といいます)も出てきました。これは、その遺伝子に相当するものを染色体にくっつけることができるかどうかで、その遺伝子が全長に渡って無くなっているものかどうかを調べるものです。この検査では、遺伝子が存在するかどうかを調べることは出来ますが、その遺伝子に微細な変化があっても、それは見つけることはできません。同じ病気(遺伝子の異常による)であっても、遺伝子の立場からいうと、その遺伝子が完全にない場合もあれば、1つの塩基が変化している場合もあります。遺伝子検査も、種類がいろいろあり、ざーっとしたものを
調べるものを1つ1つの塩基まで調べるものがあります。1つづつの塩基を調べるためには、多くの時間を労力が必要であることは理解できると思います。
染色体検査は、通常46本ある染色体をある染色法で染めて、1本多いとか少ないとか、あるスジが増えているとかないとかを見るものですので、基本的にはどのような病気でも出来ます。しかし、フィッシュ検査も含めて遺伝子検査は、その病気の遺伝子が分かっていないとできません。3ー4万個と言われている遺伝子全てを調べることは、不可能でしょう。
染色体検査は色々な組織で可能です。一般的には、血液でしょうが、出生前診断の場合は、羊水細胞または原始胎盤(胎盤絨毛)細胞を使用します。検査料は、保険が効くものが多く、だいたい2400点(24000円)ですから、3割負担とすると8000円前後になると思われます。検査の種類によっては、同じ染色体検査でも保険が効かないものもあります。遺伝子検査は、現在研究所や大学レベルで行われていることが多く、その1部は、検査会社でもされているものがあります。費用は、その調べてくれる所でかわると思いますが、かなり高いと思います。
検査はどこでもできるのかというと、フィッシュ検査を含む染色体検査は、いろいろな検査会社が行っていると思われるので、依頼することはどの病院でも可能でしょう。遺伝子検査は、その病気、遺伝子によってかわってきます。

3. マルファン症候群の場合
マルファン症候群は、遺伝子が分かっています(フィブリリンといいます)。しかし、マルファン症候群におけるこの遺伝子の異常は、大きくないものから、1塩基が変化しているものまで様々です。大きな欠失があれば、それこそ、フィブリリン遺伝子のフィッシュ検査で簡単に分かるでしょう。そうでなければ、遺伝子検査になりますが、この遺伝子はものすごく大きいため、全ての詳細を調べるのは、ものすごく大変になりますし、私自信は、どの研究所、大学でこの検査をしてくれるのか、いくらかかるのかはよくわかりません。

以上から、必ずしもマルファン症候群に関して遺伝学的検査は簡単ではないということが結論と思います。

長崎大学医学部附属病院 遺伝カウンセリング室
近藤 達郎

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