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他のマルファン症候群患者・家族の心理社会的状況を知る

マルファン症候群をもつ人々は世界中に大勢います。
これらの患者やその家族が、どのような生活を送り、どんな疑問や心配、悩みをもち、どのような気持ちでいるのかについて、いくつか調査報告が発表されています。同じ疾患をもつ仲間とその家族の状況を知ることは、「自分はひとりではない」「同じように思っている人もいるのだ」と知ることにつながり、それにより元気を取り戻すことができたと多くの人が述べています。また、自分とは異な
る考え方を知って視野が広がる場合もあります。
米国では、174人の成人患者を対象とした専門家によるアンケート調査の解析報告が3つの論文に分割されて発表されています。疾患の受け止め方から治療の状況、日常生活、運動の程度、QOL(生活の質、人生の質)や家族計画に関する思いなどについて、膨大な情報がまとめられていますが、その一部を表1 に示しました。
日本では、MNJが2001年に患者・家族を対象として113項目の質問からなる大規模なアンケート調査を実施し、その結果をまとめて発表しています。ひとつひとつの意見は自己申告ですし医学的には必ずしも正しくない場合もあるかもしれませんが、同じ立場の人々と気持ちを分かち合うことは、心理学的に非常に大きな意義があります。回答者の様々な意見を読んでみると、共感できることや自分とは異なる意見などが見えてくることでしょう。
自分が知らないことまで知ってしまうのではないかと怖く感じて他の患者・家族の状況を知ることに尻込みされる方もいらっしゃるかもしれませんが、急いで知る必要はないものの、当事者どうしの共感のもつ心理効果は絶大です。自身の診断を受け止められるようになって少し落ち着いたら、ぜひ一度、このアンケート結果を部分的にでも見てみることをお勧めします。
なお、これらの当事者アンケート結果を見る際には、自身の病状や治療方法などの医学的情報については、当事者の意見や患者どうしのアドバイスだけに頼らず、専門の医療者からきちんとした診断・情報を得るよう注意することが大切です。


表1 マルファン症候群を有する成人の状況の例

米国における174人のマルファン症候群を有する成人を対象とした質問紙(アンケート)調査について報告した3つの論文より抜粋

  • 大多数の人々が、マルファン症候群について適切な知識を有していた。
  • 83%の人が、マルファン症候群は自分たちの人生においてネガティブな影響をもたらす大きなことであると認識しており、慢性的な関節痛や疲労感、うつ状態などの症状がそうした病気の受け止め方に影響していた。
  • 58%の人が、自分の状況をコントロールできている感覚が低いか中程度と申告した。
  • 28%の人がマルファン症候群は致死的な状況ととらえ、67%が重篤な疾患ととらえていた。
  • 多くの人が、マルファン症候群であるがゆえのメリットとデメリットの両者を述べていた。
  • 80%以上の人が、ベータ・ブロッカーなどの薬物療法にきちんと従っていると自己申告したが、薬物療法に従っている人の中で必ずしも全員がそれが本当に必要だと感じているわけではなかった。
  • 薬の種類、服用期間や、自分の状況をコントロールできているかどうかの感覚などが相互に絡み合って薬物療法の受け止め方に影響しており、薬に対する“気持ち”について遺伝カウンセリングで話し合うことの有用性が示唆された。
  • 80%以上の人が、マルファン症候群のことを考慮しながら普段の運動や身体的活動をどの程度どんなふうに行うか決めていると答えた。
  • マルファン症候群の状態を否定的にとらえる度合いが高い人ほど、そうした身体的活動の調整をしっかり行っている傾向があった。
  • 62%の人が、マルファン症候群を有していることが子どもをもうけるかどうかという考えに影響していると答えた。
  • 69%の人が、マルファン症候群の出生前診断について、必ずしも受けるということではないが考えてみたいと答えた。
  • 年齢、背中の痛み、QOL(生活の質、人生の質)が低いこと、妊娠線などが、性的欲求の減少に結びついていた。
  • 遺伝カウンセリングにおいて、家族計画やsexなど性的な行動におけるwell-being(精神的に健康に過ごしていること)について話し合うことの意義が示唆された。

参考文献.
1) Living with Marfan syndrome I. Perceptions of the condition..
Peters KF, et al. Clinical Genetics: 60: 273 - 282, 2001.
2) Living with Marfan syndrome II. Medication adherence and physical activity
modification..
Peters KF et al. Clinical Genetics: 60: 283 - 292, 2001.
3) Living with Marfan syndrome III. Quality of life and reproductive planning..
Peters KF, et al. Clinical Genetics: 62: 110 - 120, 2002


状況に対する心理的な適応としての「コーピング」 →

 

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